5.建設業許可の「財産的基礎」要件を完全解説|500万円の証明方法と財務諸表の作成実務



はじめに


建設業許可の6要件のうち、第5要件が「財産的基礎または金銭的信用」です。これは、請け負った建設工事を確実に完成させるための財務的な裏付けがあるかを確認する要件です。


一般建設業と特定建設業では、求められる財産的基礎の水準が大きく異なります。
一般建設業では「500万円以上の財産的基礎または金銭的信用」があれば足りますが、特定建設業では「欠損比率20%以下」「流動比率75%以上」「資本金2,000万円以上かつ自己資本4,000万円以上」という、すべての基準を満たす必要があります。


また、財産的基礎の証明方法も複数あり、直前の財務諸表による方法、残高証明書による方法、融資可能証明による方法など、申請者の状況に応じて最適な方法を選択する必要があります。


本記事では、新人行政書士が財産的基礎要件を正確に理解し、顧客に適切なアドバイスができるよう、一般・特定それぞれの要件、財務諸表の作成方法、残高証明書の取得方法まで、実務目線で詳しく解説します。


財産的基礎


この記事で使う主な書式


財産的基礎要件の証明には、「(特典付き)行政書士開業セット」の中の以下の書式を使用します。これらの書式で、適切な財務状態を証明します。


財務諸表


  • 024 貸借対照表(様式第15号) - 直前決算期の貸借対照表。個人事業主・法人とも作成
  • 025 損益計算書(様式第16号) - 直前決算期の損益計算書。個人事業主は事業所得に係る収支内訳書でも可
  • 026 株主資本等変動計算書(様式第17号) - 法人のみ作成(個人は不要)
  • 027 注記表(様式第17号の2) - 法人のみ作成(個人は不要)
  • 028 附属明細表(様式第17号の3) - 工事経歴書、手持工事一覧表等


残高証明書(金融機関発行)


  • 預金残高証明書
  • 融資可能証明書(金融機関が発行する融資枠証明)


要件確認用チェックリスト


  • チェックリスト001(一般建設業許可要件チェックリスト)の該当部分
  • チェックリスト002(特定建設業許可要件チェックリスト)の該当部分


財産的基礎要件は、「どの証明方法を使うか」の判断が重要です。直前決算が赤字の場合は残高証明書、開業直後で決算期未到来の場合は創業時の貸借対照表など、状況に応じた証明方法を選択します。


1. 財産的基礎要件とは


社会保険加入要件


1-1. 財産的基礎の趣旨


建設業法第7条第4号では、「請負契約を履行するに足りる財産的基礎または金銭的信用を有しないことが明らかな者でないこと」が許可要件とされています。


なぜ財産的基礎が必要か?


建設工事は、多額の資材購入、労務費の支払い、機械のリース等、多くの資金を必要とします。財産的基礎が不十分な業者が工事を請け負うと、工事途中で資金繰りが行き詰まり、工事を完成できない、下請業者への支払いができない等の問題が生じる可能性があります。


このため、建設業許可では、一定の財産的基礎を有することを要件としています。


1-2. 一般建設業と特定建設業の違い


財産的基礎要件は、一般建設業と特定建設業で大きく異なります。



区分 一般建設業 特定建設業
基準 いずれか1つを満たせばよい すべての基準を満たす必要
主な基準 @自己資本500万円以上
A500万円以上の資金調達能力
B直前5年間許可を受けて継続営業
@欠損比率20%以下
A流動比率75%以上
B資本金2,000万円以上かつ自己資本4,000万円以上



特定建設業は、多額の下請発注を行うため、一般建設業よりも厳格な財産的基礎が求められます。


2. 一般建設業の財産的基礎要件


一般建設業の財産的基礎要件は、以下のいずれかを満たせば足ります。


2-1. 自己資本が500万円以上


財産的基礎


「自己資本」とは:

  • 法人の場合:貸借対照表の「純資産合計」
  • 個人の場合:期首資本金、事業主借勘定及び事業主利益の合計額から事業主貸勘定の額を控除した額に、負債の部に計上されている利益留保性の引当金及び準備金を加えた額


証明方法:

  • 024 貸借対照表(様式第15号)で証明
  • 直前決算期の貸借対照表で自己資本500万円以上を示す


実務のポイント:

  • 最も一般的な証明方法
  • 決算書から自己資本を算出し、500万円以上であることを確認


2-2. 500万円以上の資金調達能力


財産的基礎


「資金調達能力」とは:

  • 金融機関から500万円以上の融資を受けられる能力


証明方法:

  • 金融機関発行の残高証明書(預金残高が500万円以上)
  • 金融機関発行の融資可能証明書(融資枠が500万円以上)


残高証明書の要件:

  • 発行後1ヶ月以内のもの
  • 申請者名義の預金口座
  • 複数口座の合算可


実務のポイント:

  • 直前決算で自己資本が500万円未満の場合に有効
  • 金融機関に依頼して発行してもらう(手数料がかかる場合が多い)


2-3. 直前5年間許可を受けて継続営業


要件:

  • 許可を受けた後、5年以上継続して営業している


証明方法:

  • 許可通知書の写しで、許可日から5年以上経過していることを証明


実務のポイント:

  • 更新申請で使用する方法
  • 新規申請では使用不可


3. 特定建設業の財産的基礎要件


特定建設業は、以下の基準すべてを満たす必要があります。


財産的基礎


3-1. 3つの基準(すべて必須)


基準@:欠損比率が20%以下


財産的基礎


欠損比率とは:

  • 欠損の額が資本金の20%を超えていないこと


欠損の額の計算:


欠損の額とは、マイナスの繰越利益剰余金が、資本剰余金、利益準備金、その他利益剰余金(繰越利益剰余金を除く)の合計額を超える場合の、その超過額をいいます。


欠損の額 = マイナスの繰越利益剰余金 - (資本剰余金 + 利益準備金 + その他利益剰余金(繰越利益剰余金を除く))


判定基準:


欠損の額 ≦ 資本金 × 20%


証明方法:

  • 024 貸借対照表、026 株主資本等変動計算書から計算


実務のポイント:

  • 繰越利益剰余金がプラスの場合は、欠損額0円として判定
  • 資本剰余金等が繰越利益剰余金のマイナスを上回る場合も、欠損額0円


基準A:流動比率が75%以上


財産的基礎


流動比率の計算式:


流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100


証明方法:

  • 024 貸借対照表から計算


実務のポイント:

  • 流動資産:現金預金、受取手形、売掛金、未成工事支出金等
  • 流動負債:支払手形、買掛金、短期借入金、未成工事受入金等
  • 流動比率75%以上を維持することで、短期的な支払能力があることを示す


基準B:資本金2,000万円以上かつ自己資本4,000万円以上


財産的基礎


資本金の要件:

  • 株式会社:資本金が2,000万円以上
  • 持分会社:出資金が2,000万円以上
  • 個人:直前期の資本金(事業主勘定)が2,000万円以上


自己資本の要件:

  • 法人:貸借対照表の「純資産合計」が4,000万円以上
  • 個人:期首資本金、事業主借勘定及び事業主利益の合計額から事業主貸勘定の額を控除した額に、負債の部に計上されている利益留保性の引当金及び準備金を加えた額が4,000万円以上


証明方法:

  • 法人:登記簿謄本(資本金)、024 貸借対照表(資本金・純資産)
  • 個人:024 貸借対照表


実務のポイント:

  • 資本金と自己資本の両方の要件を満たす必要がある
  • 資本金2,000万円以上でも、純資産が4,000万円未満の場合は要件を満たさない


3-2. 特定建設業の財産的基礎の確認手順


  1. 貸借対照表・損益計算書を作成 - 024〜027を作成

  2. 3つの基準を確認
    欠損比率:欠損の額÷資本金×100 ≦ 20%、
    流動比率:流動資産÷流動負債×100 ≧ 75%、
    資本金:2,000万円以上(登記簿謄本、貸借対照表で確認)、
    自己資本:4,000万円以上(貸借対照表の純資産合計で確認)

  3. すべての基準を満たすか確認 - 1つでも満たさない場合は、特定建設業許可を取得できない


4. 財務諸表の作成方法


4-1. 貸借対照表(様式第15号)の作成


財産的基礎


024 貸借対照表(様式第15号は、財産的基礎要件の証明に最も重要な書類です。


作成対象:

  • 法人:直前決算期の貸借対照表
  • 個人:直前年の12月31日時点の貸借対照表


記載内容:


【資産の部】

  • 流動資産(現金預金、受取手形、売掛金、未成工事支出金等)
  • 固定資産(建物、機械装置、土地等)


【負債の部】

  • 流動負債(支払手形、買掛金、短期借入金、未成工事受入金等)
  • 固定負債(長期借入金等)


【純資産の部】(法人)

  • 資本金
  • 資本剰余金
  • 利益剰余金


【資本の部】(個人)

  • 期首資本金
  • 事業主借
  • 事業主利益
  • 事業主貸


実務のポイント:

  • 税務署提出の決算書をベースに作成
  • 建設業会計に特有の科目(未成工事支出金、未成工事受入金等)を正確に計上


4-2. 損益計算書(様式第16号)の作成


025 損益計算書(様式第16号は、直前決算期の経営成績を示す書類です。


記載内容:


【収益】

  • 完成工事高
  • その他の営業収益


【費用】

  • 完成工事原価
  • 販売費及び一般管理費
  • 営業外費用


【利益】

  • 営業利益
  • 経常利益
  • 当期純利益


実務のポイント:

  • 損益計算書は財務状況を示す重要書類
  • 特定建設業でも、当期純利益がマイナス(赤字)でも許可取得可能
  • 財産的基礎要件は貸借対照表の項目(欠損比率、流動比率、資本金、自己資本)で判断


4-3. 株主資本等変動計算書(様式第17号)の作成


026 株主資本等変動計算書(様式第17号は、法人のみ作成が必要です。


記載内容:

  • 資本金の増減
  • 資本剰余金の増減
  • 利益剰余金の増減


実務のポイント:

  • 繰越利益剰余金の残高を確認(欠損額の計算に使用)
  • 個人事業主は作成不要


4-4. 注記表(様式第17号の2)の作成


027 注記表(様式第17号の2は、法人のみ作成が必要です。


記載内容:

  • 重要な会計方針
  • 偶発債務
  • 税効果会計


実務のポイント:

  • 会計基準に則った注記が必要
  • 個人事業主は作成不要


4-5. 附属明細表(様式第17号の3)の作成


028 附属明細表(様式第17号の3には、以下の明細を記載します。


記載内容:

  • 工事経歴書
  • 手持工事一覧表
  • 兼業事業売上・原価明細表


実務のポイント:

  • 工事経歴書:直前事業年度の主要な工事を記載
  • 手持工事一覧表:申請時点で施工中の工事を記載


5. 残高証明書による証明


財産的基礎


5-1. 残高証明書とは


残高証明書:

  • 金融機関が発行する、特定の日時点の預金残高を証明する書類


使用する場面:

  • 直前決算で自己資本が500万円未満の場合
  • 開業直後で決算期未到来の場合


5-2. 残高証明書の取得方法


取得手順:


  1. 金融機関に依頼 - 預金口座のある金融機関の窓口で依頼、手数料がかかる場合が多い(数百円〜数千円)
  2. 証明日を指定 - 申請日から1ヶ月以内の日付を指定、通常は、申請日直前の日付を指定
  3. 発行 - 通常、即日〜数日で発行


必要な残高:

  • 一般建設業:500万円以上
  • 複数口座の合算可(同一名義に限る)


注意点:

  • 発行後1ヶ月以内のものが有効
  • 申請者名義の口座であることが必須


5-3. 融資可能証明書とは


融資可能証明書:

  • 金融機関が発行する、一定額の融資が可能であることを証明する書類


使用する場面:

  • 預金残高が500万円未満の場合
  • 金融機関との取引実績があり、融資枠がある場合


実務のポイント:

  • 金融機関によっては発行してくれない場合がある
  • 残高証明書よりも取得が困難な場合が多い


6. 実務ケーススタディ


実際の事例を通じて、財産的基礎要件の確認プロセスを学びましょう。


ケース1:一般建設業(自己資本で証明)


顧客の状況:

  • 株式会社(資本金300万円)
  • 直前決算の純資産額:800万円
  • 一般建設業許可を申請予定


確認プロセス:


  1. 財産的基礎要件の確認 - 自己資本800万円 ≧ 500万円 → 要件を満たす
  2. 使用書式: - 024 貸借対照表(純資産合計800万円を記載)、025 損益計算書、026 株主資本等変動計算書、027 注記表


ポイント:
直前決算の自己資本が500万円以上あれば、最も簡単に要件を満たせます。


ケース2:一般建設業(残高証明書で証明)


顧客の状況:

  • 株式会社(資本金100万円)
  • 直前決算の純資産額:300万円(500万円未満)
  • 預金残高:700万円
  • 一般建設業許可を申請予定


確認プロセス:


  1. 財産的基礎要件の確認 - 自己資本300万円 < 500万円 → 自己資本では要件を満たさない、残高証明書で証明する必要
  2. 残高証明書の取得 - 金融機関に依頼し、残高証明書(700万円)を取得
  3. 使用書式: - 金融機関発行の残高証明書


ポイント:
自己資本が500万円未満でも、残高証明書があれば許可を取得できます。


財産的基礎


ケース3:特定建設業


顧客の状況:

  • 株式会社(資本金3,000万円)
  • 直前決算の財務状況:純資産額:6,000万円、流動資産:8,000万円、流動負債:9,000万円、繰越利益剰余金:2,000万円(プラス)、資本剰余金:1,000万円、当期純利益:-200万円(マイナス・赤字)
  • 特定建設業許可を申請予定


確認プロセス:


  1. 3つの基準を確認


@欠損比率:

  • 繰越利益剰余金がプラス(2,000万円)なので、欠損額0円
  • 0円 ≦ 3,000万円 × 20% (600万円)


A流動比率:

  • 8,000万円 ÷ 9,000万円 × 100 = 88.9%
  • 88.9% ≧ 75%


B資本金・自己資本:

  • 資本金:3,000万円 ≧ 2,000万円
  • 自己資本:6,000万円 ≧ 4,000万円


  1. 判定 - 3つの基準すべてを満たす → 特定建設業許可取得可能


ポイント:
特定建設業は、3つの基準すべてを満たす必要があります。1つでも満たさない場合は、一般建設業許可を取得するか、財務状況を改善してから申請する必要があります。また、当期純利益がマイナス(赤字)でも、3つの基準を満たしていれば許可取得可能です。


ケース4:開業直後で決算期未到来


顧客の状況:

  • 株式会社(設立後3ヶ月、決算期未到来)
  • 資本金:500万円
  • 預金残高:600万円
  • 一般建設業許可を申請予定


確認プロセス:


  1. 財産的基礎要件の確認 - 決算期未到来のため、直前決算の財務諸表がない、創業時の貸借対照表または残高証明書で証明
  2. 証明方法の選択 - 創業時の貸借対照表(資本金500万円を計上)で証明、または、残高証明書(600万円)で証明


ポイント:
決算期未到来の場合は、創業時の貸借対照表または残高証明書で証明します。


財産的基礎


まとめ


本記事では、建設業許可の第5要件である財産的基礎要件について詳しく解説しました。


押さえるべき重要ポイント


一般建設業と特定建設業で基準が異なる

  • 一般:500万円以上(いずれか1つ)
  • 特定:すべての基準


一般建設業の証明方法(3つ)

  • @自己資本500万円以上
  • A500万円以上の資金調達能力
  • B直前5年間許可を受けて継続営業


特定建設業の3つの基準

  • @欠損比率20%以下
  • A流動比率75%以上
  • B資本金2,000万円以上かつ自己資本4,000万円以上


財務諸表の作成

  • 024 貸借対照表(様式第15号)
  • 025 損益計算書(様式第16号)
  • 026 株主資本等変動計算書(法人のみ)
  • 027 注記表(法人のみ)
  • 028 附属明細表


残高証明書の活用

  • 自己資本が500万円未満の場合に有効
  • 発行後1ヶ月以内
  • 複数口座の合算可


財産的基礎


実務で成功するための必須ツール


財産的基礎要件の確認と証明には、以下の書式が不可欠です:


要件確認:

  • チェックリスト001またはチェックリスト002(財産的基礎部分)


証明書式:

  • 024 貸借対照表(様式第15号)
  • 025 損益計算書(様式第16号)
  • 026 株主資本等変動計算書(様式第17号)
  • 027 注記表(様式第17号の2)
  • 028 附属明細表(様式第17号の3)


残高証明書:

  • 金融機関発行の残高証明書(自己資本500万円未満の場合)


これらの書式を正確に作成し、財産的基礎を適切に証明することが、審査通過の鍵です。特に、特定建設業の場合は、3つの基準すべてを満たす必要があるため、事前の財務状況確認が不可欠です。


20年以上新人行政書士に使われ続けている「行政書士開業セット」の書式集については、以下のページで詳しく解説しています。


これらの資料には、024〜028の詳細な記入例、財産的基礎の計算方法、残高証明書の取得手順など、実務で即使えるノウハウが凝縮されています。


財産的基礎


次に読むべき記事


財産的基礎要件を理解したら、次は第6要件を学びましょう:


  • 記事6:社会保険加入要件の詳細
  • 記事7:申請書類の作成手順と提出実務


 
独学の前に→「おすすめの実務講座
基礎を理解した後は→「おすすめの実務本