
「どうせ成年後見はベテランの先生の領域だよな・・・」

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分な方の権利を守るための制度です。
家庭裁判所が選任した後見人等が、本人に代わって財産管理や施設入所契約の締結などを行います。
高齢化が進む日本において、この制度は今後ますます重要性を増していく分野です。
成年後見制度は大きく「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに分かれます。
法定後見制度は、すでに判断能力が不十分になった方について、家庭裁判所が後見人等を選任する制度です。
一方、任意後見制度は、判断能力が十分なうちに本人が将来の後見人をあらかじめ選び、契約によって支援内容を決めておく制度です。
行政書士が最も深く関わることができるのは、この任意後見契約の作成支援です。

法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれます。
このうち申立件数が最も多いのは「後見」で、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある方が対象です。
なお、令和8年法律第45号による民法改正により、施行後は成年後見人・保佐人が廃止され、補助人に一本化されます。
認知症を原因とする利用が全体の6割以上を占めており、今後の高齢化の進展にともなって利用ニーズはさらに拡大していくと見込まれます。

成年後見に関する業務を検討する際は、行政書士の職域を正しく理解しておくことが欠かせません。
家庭裁判所への後見開始の申立書類の作成は、司法書士または弁護士の業務範囲となるため、行政書士が直接手がけることはできません。
一方で、任意後見契約書や財産管理等委任契約書の起案、制度の説明、相談対応は行政書士の業務として広く行われています。
また、日本行政書士会連合会が推進する成年後見支援の仕組みを通じて、法人後見や市民後見人として活動する道も用意されています。
依頼者の状況によっては、司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門職と連携しながら対応することが望ましいケースも多くあります。

令和8年7月21日付で総務省が公表した「成年後見制度の利用促進に関する調査結果」は、全国の市区町村における制度運用の実態を明らかにしたものです。
この調査は、成年後見制度利用促進法に基づき、地域の実情を踏まえた計画的な取組を進めることを目的として実施されました。
結果からは、制度そのものの重要性が高まる一方で、運用面ではまだ多くの課題が残っていることが読み取れます。
調査によると、約85%の市区町村が制度の利用ニーズを把握していないという結果が出ています。
これらの市区町村のうち半数以上は「必要性は感じているが、把握方法や手順が分からない」と回答しました。
ニーズ把握の方法は、アンケート調査による方式と、認知症高齢者数などから推計する方式の2つに大別されますが、いずれも調査項目の設計や推計方法に課題があるとされています。
逆に言えば、ニーズ把握の手法さえ整えば、多くの自治体が今後具体的な取組を進める可能性が高いということです。

地域包括支援センターや基幹相談支援センターなどの相談支援機関は、制度利用が想定される方を「中核機関」につなぐ役割を担っています。
しかし調査では、相談支援機関の約2割が「制度が複雑で理解が難しい」と回答し、約2〜3割が「どのようなケースを中核機関につなげばよいか分かりにくい」と答えています。
明文化された基準ではなく、職員の経験則に頼って判断しているケースが多いことも明らかになりました。
中核機関側も約3割が「類似した事案でも対応に差がある」と感じており、現場レベルでの基準整備が急がれています。

約37%の市区町村は家庭裁判所と連携できていない状況にあり、そのうち約3割が「司法機関である家庭裁判所に依頼することに抵抗感がある」と回答しています。
一方で、家庭裁判所と意見交換する場が設けられている市区町村ほど、連携した取組が進んでいる傾向が見られました。
意見交換を通じて「市区町村の職員との面識ができ、連携のハードルが下がった」と回答した家庭裁判所は約7割にのぼります。
顔の見える関係づくりが、制度運用の円滑化に直結していることがうかがえます。

調査では、約7割の市区町村が親族後見人への支援を実施していないことも明らかになりました。
親族後見人からは「家庭裁判所への報告書作成の負担が大きい」「横のつながりがなく孤立しやすい」といった声が寄せられています。
また、他市区町村の利用者数を今後の参考にしたいとする市区町村は約6割にのぼり、全国データの共有ニーズも高いことが分かります。
厚生労働省は、こうした課題に対応するため、アンケート調査票の例示や研修の充実、市区町村と家庭裁判所の意見交換の促進などの措置を講じるとしています。
中核機関とは、地域において関係機関のコーディネートを担う権利擁護支援の中核的な機関・体制のことです。
全国の約8割の市区町村で整備が進んでおり、その多くは市区町村による直営、あるいは社会福祉協議会やNPO法人への委託という形で運営されています。
行政書士が地域連携を考える上で、まず接点を持つべき窓口のひとつといえます。
総務省の調査資料によれば、成年後見制度の利用者数は令和3年12月末時点の約23万9,933人から、令和7年12月末時点には約25万9,901人まで、5年連続で増加しています。
高齢化の進展にともない、身寄りのない高齢者や判断能力が不十分な方は今後さらに増えていくと見込まれています。
一方で、市区町村ごとの利用率には大きなばらつきがあり、人口5万人未満の自治体では利用率の分布が0%から5%超まで幅広く分かれています。
この地域差は、行政書士がどの地域で、どのような形で制度に関わっていくかを考える上で重要な材料となります。
制度の認知度が全国的に高まっていく過程では、任意後見契約や財産管理契約の相談ニーズも比例して増えていくことが予想されます。
「まだ判断能力があるうちに将来に備えたい」という相談は、相続や遺言の相談と合わせて寄せられることが多い分野です。
成年後見だけを単独のテーマとして捉えるのではなく、相続・遺言・家族信託などと合わせて幅広く対応できる体制を整えておくことが、結果的に案件獲得の間口を広げることにつながります。

判断能力が十分なうちに将来の備えをしておきたいという方に対して、任意後見契約書や財産管理等委任契約書の作成を支援するのは、行政書士の代表的な業務のひとつです。
公正証書化が必要な任意後見契約については、公証役場との調整を含めたサポートも求められます。
依頼者のライフプランに合わせて、見守り契約や死後事務委任契約などをあわせて提案することで、より包括的なサービスとして提供できます。

今回の調査結果からも分かるとおり、相談支援機関や中核機関は、制度利用が必要な方をつなぐ役割を担いながらも、判断基準の整備に苦慮している実態があります。
行政書士がこうした機関に日頃から顔を出し、任意後見や財産管理契約に関する専門的な知見を提供できる存在として認知されることは、地域における信頼構築につながります。
特に新人行政書士にとっては、既存の人脈がない分、こうした公的機関との接点を早期に作ることが案件獲得の近道になり得ます。

日本行政書士会連合会や各都道府県の行政書士会では、成年後見に関する研修制度や支援組織を設けており、法人後見や市民後見人として活動する行政書士も存在します。
ただし、この活動はあくまで家庭裁判所からの選任を前提とするものであり、司法書士や弁護士との役割分担を正しく理解した上で関わる必要があります。
調査では親族後見人への支援体制がまだ十分でないことが指摘されており、専門職としての知見を活かせる場面は今後も増えていくと考えられます。

成年後見の相談に来られる方の多くは、同時に相続や遺言についても不安を抱えているケースが少なくありません。
財産管理の手段としては、成年後見制度のほかに家族信託という選択肢もあり、依頼者の状況に応じてどちらが適しているかを整理して説明できる知識が求められます。
成年後見・任意後見・遺言・家族信託を横断的に理解しておくことで、依頼者一人ひとりに合わせた提案ができるようになり、結果として相談の受け皿も広がります。

家庭裁判所から選任されれば、行政書士も成年後見人(今後は補助人)になることができます。
日本行政書士会連合会や各都道府県会の研修・登録制度を通じて、法人後見や市民後見人として活動する道も用意されています。
任意後見契約は公正証書によって作成することが法律上定められています。
行政書士は契約内容の起案や本人の意向整理を支援し、公証役場との調整を行うことができます。
判断能力が低下する前の財産管理を柔軟に設計したい場合は家族信託、判断能力低下後の身上保護も含めて包括的に支援したい場合は成年後見制度が向いているとされます。
依頼者の家族構成や資産状況、希望する管理の柔軟性に応じて、両制度の特徴を比較しながら提案することが重要です。
中核機関は多くの場合、市区町村の福祉担当課や社会福祉協議会が窓口となっています。
まずは各自治体のホームページや福祉担当窓口に問い合わせることで、地域の中核機関の連絡先を確認できます。
今回の総務省調査は、成年後見制度の運用がまだ発展途上であり、地域ごとに大きな差があることを示しています。
この地域差こそが、新人行政書士にとってのチャンスでもあります。
既存のやり方にとらわれず、地域包括支援センターや中核機関といった公的な窓口に自ら足を運び、関係を築いていくことが、今後の受任機会につながっていくはずです。
成年後見という一分野に閉じることなく、相続・遺言・家族信託といった関連領域まで幅広く学び、依頼者のあらゆる相談に応えられる体制を整えておくことが、開業初期の行政書士にとって最も確実な一歩となるでしょう。
